某大手信用調査会社の姿勢から考える信用調査のあり方


 先日、某「大手」信用調査会社から「信用調査の依頼が入ったので訪問したい」と初めて電話を受けた。

 

 残念ながらその某「大手」信用調査会社については、毎年リリースしている某集計について基本的なことが不理解のまま漫然と公表していると思われ、個人的にあまり良い印象がなかったので「忙しいので断ります」と対応してみた。

 

 すると電話をかけてきた調査員は、すかさず「売上と利益はいくらですか?」と聞いてきた。

 

 私も信用調査をやってきたが、これは驚愕である。会ったこともない。見たこともない。本当にその会社の人間かもわからない人間に、突如業績を公表するわけがない。

 電話を受けて1分程度の話だ。まったくナンセンスだ。

 

 たまたま私は調査や与信の仕事をしているからその信用調査会社の名前を知っているが、そうでない人間(社長)にとってみれば「不審な電話」としか思えないはずだ。

 

 見ず知らずの電話相手に、自分の懐事情を話しては絶対にダメだし、悟られてもダメだ。これは犯罪予防の基本中の基本。もし調査員をかたった犯罪者であったならば、儲かっていてお金を持っていることが知られると事務所荒らし(強盗、タタキ)にあうかもしれないし、特殊詐欺グループにその情報が拡散されて悪用される恐れもある。

 

 最近では御社を買いたい(資本提携したい)と考えている会社がある、と接触してくるM&A仲介会社もある。その背後には買収した会社の財産を収奪することだけを目的にしている投資会社まがいもいたりする。迂闊に決算情報を流布してしまうと、こうした詐欺的なM&Aの標的にされてしまうのだ。 

 

 

 ともかく、そこそこ業界で知名度があるからといって、電話一本で情報が取れると勘違いしているとしたら、思い上がりもいいところだ。

 

 

 電話をかけてきた某「大手」調査会社は、大手と言っても業界「最大手」の売上高や人員規模と比べるとはるかに劣る。

 

 それにも関わらず、揃えているデータ件数は「最大手」と同等程度と公表している。

 

 これは信用調査に携わっている人間からすると不思議だ。企業データを「マス」で適切に収集し、メンテナンスするのは想像以上に膨大な労力・資源が必要だと思われる。

 

 国内では売上規模・利益水準・資金力・人員等からいって某「最大手」が他を圧倒している。その「最大手」でさえも日々調査員が必死に汗をかかなければ、企業情報は集積できないし適切にメンテできないはずだ。

 

 人員数で劣る某「大手」が同程度のデータ件数を揃えているということは、私が受けたようなナンセンスな「調査」手法でデータを収集するのが横行しているのではないかという疑念が生じる。

 

 最近は「億単位の件数」の企業データを取り揃えていることを標榜する調査会社?も存在するが、本当に数億件を保有し、毎年適切にメンテして与信判断に耐えうる情報を維持できる体制をお持ちなのだろうか?そうでなければ実態としてはネットで落ちてる情報を拾って集計するだけの「名簿屋」にすぎないのではないか。

  

■信用調査の環境は変わっている

 企業の方々は皆コンプライアンスには細心の注意を払っている。

 

 取引先と締結した守秘義務契約の遵守も然りだ。

 

 その取引先と取引していることを、その取引先の承諾なしに公表することは通常は許されない。

 

 会員なら誰でも見れる信用レポートに記載する目的で信用調査会社に対して取引先名を開示する場合も、その取引先の承諾が必要なはずだ。

 

 自社においても、担当ベースで調査員に勝手に喋れば、会社財産(情報資産)を無断で流出させたと問われかねない。

 

 かつて信用調査会社の人間が調査先の取引銀行の窓口に行くと、銀行員が情報を教えた時代もあったようだが(これを「銀行側調」という)、これを現代でやればコンプライアンス違反で、喋った銀行員は処分されるだろうし、銀行自体が金融庁に問題視されうる。

 

 時代は変わったし、これからも変わる。

 

 民間企業に過ぎない調査会社にあれもこれも喋る時代は終焉しつつあると思われる。迂闊に新事業について喋ればライバル会社に真似される。取引先名を喋ってレポートに記載されてしまえばライバルに営業攻勢をかけられる。喋るとしても自社に都合の良いことだけだろう。

 

 調査員が裏を取ろうと取引先等に接触しても、守秘義務があるから喋ってくれない。これは当然だ。

 

 情報は会社財産であり、内部統制上、勝手に外部に流出させることは厳禁だからだ。

 

■原点回帰

 

 そもそも、信用調査は「自社」で「自ら行う」のが大原則である。与信をするのは「自社」であり、自社が取引先に直接決算書の開示を要請するのが本筋だ。

 営業パーソンが、取引先の事務所や工場に出向き、雰囲気を確かめる。足しげく通って取引先の社長や幹部と関係を構築し、そのうえで与信取引をするから決算書を見せてくれと要請する。

 当然、NDA(守秘義務契約)を締結する。

 見せてくれた決算書は、自分で財務分析し、疑問点があれば社長や財務担当に聞く。これを営業が自らやるのが本筋なのだ。

 

 まともな会社の与信プロセスでは、まず営業自らが取ってきた決算書を添付することを要求しているはずだ。それができない場合に信用調査書を添付する。当然、何故、直接決算書を入手できないのか問われる。これはコスト(調査料)の問題ではなく、与信マインドの問題なのだ。決算書を入手する努力をしない営業パーソンは与信マインドが無いとみなされる。

 

 守秘義務の厳しい時代に調査会社に多くは期待できない。 このような時代への各企業(与信側)の対応として、以下が挙げられる。

  • 自社社員の「関係構築力」を高めて取引先から決算書を含む情報を直接収集できるスキルを磨く。
  • 取引先が情報を開示しない場合でも、公知情報だけから信用判断できるようなスキルを磨く。

H.Izumi

 

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