詐欺などの犯罪行為により得た犯罪収益を用いて、法人の事業経営を支配することは禁止されている。組織的犯罪処罰法9条に規定される「不法収益等による事業経営支配罪」だ。
犯罪収益を用いて、法人の株式を取得し、あるいは法人に対する債権を取得し、その影響力を行使して、役員を選任したり変更することが禁止されている。違反すれば、5年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、又はそれらが併科される。
このような法律があるにも関わらず、日々行う「コンプライアンス信用調査」において、「どうみても犯罪収益を原資とした事業が行われている」と見立てざるを得ないケースに遭遇することがある。
例えば、数十億円に及ぶ被害をもたらした詐欺事件の関係者が懲役を終えた後に、氏名を変えて法人の役員に就任。その法人は、登記ブローカーから買収したペーパーカンパニー(休眠会社)だが、その役員が就任した途端、各地の不動産を買い漁って不動産賃貸業を手掛け始める。
事業実体のないペーパーカンパニーが何故、金融機関からの借入もなく、高額の不動産を次々入手できるのか?
隠匿していた犯罪収益(詐欺被害金)を使っているからにほかならない。
不動産賃貸業を通じて表の世界に出てくると、化粧品販売、芸能プロダクション、自動車販売業など次々と新たなビジネスを立ち上げる。
やがて、詐欺で得た犯罪収益を元手にしていることを忘れて、「俺はヤリ手の実業家だ」などと錯覚し始める。関係会社を多数持ち、隠匿している巨額の犯罪収益を売上金に紛れ込ませて「洗浄(ロンダリング)」している。
こんなイメージだ。
犯罪収益を原資とし、犯罪収益を洗浄していると見られる会社を「マネロン会社」(マネー・ロンダリングに使われている会社)と、私は呼んでいる。
マネー・ロンダリングとは、不法に稼いだ資金を隠匿しながら移転し、事業活動や各種資産に投資する一連の動きだ。汚れたカネをあたかも正当なカネと仮装して表の世界で運用することだ。
こうした「マネロン会社」と平然と取引を行う企業も存在する。売上・利益になるからといって、相手のバックグラウンドもよく調べずに取引している。
マネロン会社にモノやサービスを販売するということは、売上代金として「犯罪収益」を転得していることに等しい。汚れたカネを受け取っている。だからその会社もマネロン会社だ。そう「見立て」られてしまう。いわゆるレピュテーション・リスクだ。場合によっては、犯罪収益等収受罪として刑事事件に至る可能性もあろう。
誰からの「レピュテーション」(評判)かといえば、「取引審査のプロフェッショナル」からの評判だ。一般消費者などは、そもそも「マネロン会社」云々に気づかない。
A社は犯罪収益を原資としているかもしれない。これは、個々の企業における審査のプロが、いくつかの判断材料に基づいて描く「可能性」である。
そのA社と取引するB社もアブナイ。こうした極秘の「社内判断」により、B社は静かに取引を拒絶されるだろう。表沙汰になることはない。
自社がこのB社のように評価・拒絶されないためにも、関係先について適切なコンプライアンス・チェックを行いリスク管理を徹底する必要がある。
民間企業のリスク管理においては、刑事捜査のようなレベルの厳格な証拠に拘泥するのではなく、人脈相関や状況証拠からの「見立て」で判断していくことになる。
相手の銀行口座の取引履歴など証拠の調査ができるわけではないからだ。
残念ながら犯罪収益の大部分は闇に消え、マネー・ロンダリングされて表の世界で跋扈(ばっこ)している状況だと思われる。
「詐欺師等が経済的に勝つ」世の中にしないためにも、我々、民間事業者は犯罪収益を使わせてはならないし、受け取ってはならない。犯罪収益が原資と見立てられるような「マネロン会社」とビジネスをすることは回避しなければならない。
H.Izumi
◆マネー・ロンダリング関与リスクと見極め
◆マネー・ロンダリング関与リスクと見極め