~知らない間に債権・債務が発生する取引への対応~
商社特有の用語かもしれないが「ノーインフォメーション取引」という名の戦略的な取引形態がある。
この取引の特徴は、自社が預かり知らない(ノーインフォメーション)ところで、債権債務(リスク)を負担してしまう可能性があるということである。
上図において、「自社」は、仕入先と販売先の商流に介在するが、販売先からのオーダー(発注)は、直接仕入先(サプライヤー)になされる。
そして、オーダーを受けた仕入先(サプライヤー)は、直接、販売先にモノを送付する。
この取引により、モノの流れのリードタイムを縮減できるほか、業務負担・コストを減らすことができる。
この取引は、リードタイムとコスト縮減というメリットをもたらす一方、リスクも抱えている。
この取引を分解してみると、
① 販売先から仕入先に発注書を送信することにより、
①’ 自動的に「自社が販売先から受注したことになる」+「自社が仕入先から仕入れることになる」
つまり、勝手に「仕入先に対する(将来の)買掛債務」と、「販売先に対する受注残高」を抱えることになるのである。
②そして、モノは仕入先から販売先に直送され、「売掛債権」が発生する。(モノの実際の動きに関知できない間に、販売先に売掛債権を抱えてしまう)。
よくよく考えるまでもなく、この取引はアブナイ取引だ。
というのも、
(1)販売先が倒産や夜逃げを計画しており、その前に大量仕入を企図しているとしよう。
(2)その仕入は、販売先から仕入先(サプライヤー)への発注書1枚で済む(自社を通さない)。
(3)大量オーダーを受けた仕入先(サプライヤー)は、間に入る「自社」さえ潰れなければ問題ないと考えて、販売先が倒産を計画してようが関係なく、受注しモノを発送しようとする(売上が欲しいから)
(4)販売先が倒産すると、自社には販売先への売掛債権が残る一方、仕入先にはキチンと支払う必要がある。
つまり、自社だけ損するのである構造なのだ。
実際の事故をみると、「仕入先」と「販売先」がグルになっているケースが多い。型にはめられるケースだ。
「自社」の営業パーソンは、営業目標・予算の重圧に苦しんでいる。
そんなとき、仕入先から「売り先を紹介するから商流に入ってよ」、あるいは販売先から「仕入先との間に入ってよ」と声をかけられれば、ついつい乗ってしまうだろう。
最悪の場合、モノ自体が全く実在しないケースもある(循環取引、架空取引)。単に仕入先(グルである販売先)にお金をむしられているカモにすぎないのだ。
こうした「直接発注・直送取引」を武器としたいならば、応分のリスク管理を整える必要がある。
重要なことは、
①仕入先との契約で「受注限度」を設定する。いくら販売先が発注しようが、所定の上限を超えた部分については、仕入代金の債務を負わないようにしておくのだ。
勝手に仕入先が販売先から受注しても、所定上限を超えていれば、仕入先は自社に何ら要求できなくする。
これが、この戦略取引のリスク管理における最大の要諦だ。仕入先と受注限度を契約できない場合は、こうした取引は原則として行うべきではないと考える。
②仕入先から実際に販売先にモノが送付されているか? 仕入先の発行する納品書だけでは不十分だ。きちんと相手が受領したことを示す受領書も最低限必要だ。
③自社もきちんとタイムリーに受発注・納品の事実を把握できる仕組みが必要だ。これはIT対応となろう。
④それから、これが一番重要だが、販売先と仕入先の素性・関係をよく調べることである。なぜ、これらの間に自社が介在する必要があるのか。その意義きちんと整理できなければならない。
新規取引においては、販売先だけでなく、商流全体の調査や取引の意味の整理が特に必要である。
H.Izumi