販売取引の与信管理とは「売掛金」の管理であるといった誤った定義が目に付く。
失礼ながら全く与信管理の本質が分かっていないように思える。
そして、この不理解が与信管理に関する不正や事故を防げない原因となっている。
そもそも「売掛金」というのは、会計上の技巧的概念であり、たまたま帳簿を「発生主義」に基づいて記帳しているから出現する「勘定科目」に過ぎない。
現金収入が得られた段階で売上計上する「現金主義」で会計記帳している場合は「売掛金」は出現しない。
もちろん「現金主義」で記帳している場合でも、販売先が倒産し、代金が不払いとなる事態は生じうる。
その場合は「売上」が計上できないという話であり、「売掛金」の「貸倒」という話ではない。
税務上も売上すら計上していないのだから「貸倒損失」は発生しておらず、損金処理することは勿論できない。
なにが言いたいのかといえば、販売先の倒産による代金不払いといった事象が生じた場合、同じ事象にも関わらず、発生主義であれば「売掛金の貸倒損失」、現金主義であれば「売上が計上できない」となり、会計のやり方で「表現」が変わってくるということだ。
与信管理を「売掛金」の管理だというような定義は「発生主義」という大前提を置いたうえでの定義であり、アカデミックに耐えうる「普遍的」な定義としては失格なのだ。
会計処理の方法に関係なく成り立つ定義としては、「売上のキャッシュ・フローの管理」といった言い方だろう。そして与信リスクとは、相手の倒産等により「想定した売上のキャッシュ・フローが入ってこない」リスクである。
(上記で「想定した」売上と記しているには理由がある→関連コラム:与信ポジション再考)
与信管理に関する不正や事故を見ると、システム上、請求が立っていない(=売掛金が計上されていない)から与信が発生していないという、とんでもない勘違いをしているケースが多い。
与信=売掛金という、有害無益な定義が本質の理解を妨げているのだ。本質を押さえていないから不正や事故を防げないのである。
会計事象に至らない段階でリスクを抱えることも企業経営においては沢山ある。仕訳を切ってからアタフタしてるようでは遅いのだ。
リスク管理が会計に従属しては駄目だということだ。
H.Izumi