与信限度額は「相手の事情」(与信先の決算や経営状況・ネガティブ情報)だけで決めるものではない。
個々の取引の可否判断や与信限度額を決定するためには、自社の事情、すなわち自社財務体力や資金繰りなども加味しなければならない。
この点は特に財務体力や資金制約のある中小企業こそ留意すべきである。
与信管理の入口は、取引相手と「どのように付き合うか」、すなわち取引条件を決めることにある。
その中でも、特に代金回収を何カ月後とするか、現金なのか手形なのか等が「核」となる。「自社」の資金繰りに直結する問題となるからだ。与信先に長めの代金回収期間を容認する場合、自社の運転資金負担が増す。
自社として、追加であとどれぐらいの運転資金を負担できるのか?手元の現金は十分か?不足する場合は、銀行から追加でお金を借りれるのか?
これらを勘案しながら「回収条件」や「取引額」その結果として決まる「与信限度額(与信枠)」を決定していくことになる。
そうでないと自社の財務や資金繰りでは負担できない与信リスクを負うことになる。自社の懐事情を無視して与信取引をした場合、一気に資金繰りが多忙となり、取引相手が倒産するのではなく、「自社」が倒産する事態もおこりえる。
与信先が大手で財務優良であったとしても取引条件によっては、自社が潰されてしまうこともある。中小企業の与信管理ではこの点に留意したい。
一方、自社が必要な運転資金を無尽蔵に低利で調達できる大手優良企業であれば、与信枠をいくら多額に設定しても資金繰りの観点からは問題にならない。
だから大手優良企業であれば与信業務を自社のファイナンス上の問題から切り離すことでき、組織設計上も経理部門と与信管理部門が分化していることが多い。
中小企業はそうではなく、個々の与信判断は、すなわち自社の資金繰りの問題であり、経理・財務と切り離せない。
だから中小の組織設計としては経理・財務部門が与信管理を兼ねるべきであり、現にマンパワーの制約からもそうしている会社が多いと思う。
資金力や財務体力に乏しい中小企業ほど、本来的には、資金計画と連動した緻密な与信管理が必要なのだ。
H.Izumi
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