公平無私に真実を追求するジャーナリズムとは違い、我々、取引審査の世界では「この経営者は危なっかしいな」とバイアスを思い切りかけて相手の会社を分析することがある。
「火のないところに煙は立たない」がリスクマネジメントの基本原理。この原理からすれば、取引相手の経営者に、「煙」、すなわち少しでも怪しい所作が見受けられるならば警戒心を高めなければならないし、場合によっては、それだけで取引を謝絶するのが無難となる。
何をもって「煙」とするかは、経験則に基づく。経済事件やトラブルを起こした(巻き込まれた)経営者の特徴から経験的に言えることであるが、「わきの甘さ」はその最たるものだろう。
経営者は狙われる生き物。だから、わきの甘さは経営者の評価にとって致命的だ。わきが甘いと、(知らずに)反社会的勢力と関係している可能性もある。甘い話(資金提供など)をエサに経営介入を受け、いずれ根こそぎ会社を乗っ取られる。わきが甘そうだと次々と詐欺話が舞い込み、騙されて反社会的勢力にマネーを垂れ流す。あるいは詐欺商法の広告塔に祭り上げられたりする。
だから審査パーソンは、相手の経営者のわきの甘さに注意するのだが、審査の人間は直接経営者に会うことは少ない。だから、【1】経営者のSNS上での言動や、【2】営業など相手と直に接する者とのコミュニケーションを通じて経営者の人物像を推察し、リスクの「煙」を探知することになる。
今回は【1】について述べることにしたい。
【1】SNSでの言動
経営者がSNSを活用することを否定するわけではない。しかし、その言動によっては危なっかしい経営者だと周囲(取引先の審査パーソン等)から警戒され、会社の評価にまで悪影響を及ぼしかねない。
例えば、フォロワー(SNSの読者・視聴者)へのサービス精神からか、守秘義務に抵触するような内容まで何でもかんでも投稿するような経営者。過去のこととはいえ取引や契約の内容をペラペラと配信する者も見受けられる。
また、「今日はA社の××社長と、新規ビジネスの件でランチ・ミーティングしました~」といったビジネス上の行動履歴に関する投稿もよくある。記事をアップした経営者には悪気はないのだが、相手のA社は新規ビジネスを考案していること自体も内密にしておきたいのに、勝手に暴露されてしまったと憤慨しているかもしれない。
こうした投稿を見た第三者は、この経営者と付き合うと何でもかんでもSNSで暴露されてしまうと不安になるだろう。無邪気で人のいい経営者なのだが、わきが甘く危なっかしいと警戒され信用されなくなる。
フォロワー数を自慢したり、それが力であると誇示したりするような経営者は危なっかしい。たちが悪いと、取引で何らかのトラブルが発生したときにSNSで一方的な主張を展開し、そのフォロワーも加勢してネット上で総攻撃を仕掛けてくる可能性もある。SNSのフォロワー数をバックにゴリゴリ主張を通そうとするならば、それはある意味、反社会的勢力のやり方に近いだろう。
必要以上に交友関係のエビデンス(写真や動画)を残す経営者も危なっかしい。仲良く一緒に映った相手が万が一、経済事件に関わっている(後々、関わる)ような人物であった場合のレピュテーションリスクを考えているのだろうか。個人の行動が会社にどう影響するか想像しないのだろうか。従業員の生活を預かる経営者として軽率ではないか。厳しい審査パーソンは、そう見るだろう。
政治家や著名人との写真をひけらかすのも危なっかしい。すでに審査の世界では、このような虚栄的な行動はアブナイの典型例として定式化されたチェックポイントになっている。そうしたビジネスの常識も知らずに、信用付けに未だに政治家や著名人を利用しようとする経営者は“情弱”であり、世間知らずのわきの甘さを感じる。逆に警戒されてしまうことを知らないのだ。一方、それに騙される会社も後を絶たず、更にわきが甘いと言わざるを得ない。審査パーソンの意識を含め根本的に改革したほうがいいだろう。
こうした虚栄的な経営者は、自分(自社)の信用が足りないから政治家(元政治家)などの威を借りるのだが、そもそも政治家は反社チェックやマネー・ロンダリング対策の世界では何らの信用付けにならず、汚職リスクなどの観点から、むしろ特別な警戒を要する対象としてカテゴライズ(前回述べたPEPs:Politically Exposed Persons)されていることを知らないのだろう。
こうした経営者の知識不足を原因とする「ブランディング」の失敗は、審査する側にとっては感知しやすい「煙」となる。煙を感知したからには、審査部門としては、更なる深掘りの調査をするか、取引を辞めるか、モニタリング(監視)を条件として取引を可とするか、ケース・バイ・ケースで意見していくことになろう。
更なる深掘りの調査といっても難しいことではなく、まずは営業担当に相手の経営者の人となりを聴いてみることが重要だ。こうした審査部門と営業とのコミュニケーションについては、次回に述べることにしたい。
H.Izumi