よくある「危ない会社を見極めるチェックリスト」に、
「挨拶の声が小さい会社は怪しい」
「整理整頓ができない会社は怪しい」
といったチェック項目が列挙されている。
しかし、こういった「チェックリスト」は、すでに世の中に出回っているから(=はっきり言って「陳腐化」している)、詐欺会社等もこうしたチェックポイントを踏まえた上で、殊更に、「挨拶をしっかり」「事務所は綺麗にしておく」などの粉飾行動をとるだろう。
つまり、我々審査する側の判断基準や行動が、相手の行動を変化させてしまうのである。
なお、最近では不自然に元気な挨拶をする会社を逆に怪しいと見たり、「パワハラ」系の会社なのかと警戒したりする審査パーソンもいる。
従業員に極端に大きな声で挨拶や返事をさせる。それはそれで会社のあり方だし、従業員も納得しているならまぁ良いかもしれないが、逆に周囲がそれをどう見るかも勝手なはずだ。
要は「挨拶」云々を短絡的にチェックリストに盛り込んでも駄目だし、チェックリストによって一面的な見方しか出来なくなるようでは、駄目だということだ。
反社チェックでも、名刺や登記の氏名情報に基づき商用データベース等でチェックしていることが周知となれば、当然、悪だくみの輩はそれを回避しようと、データベース等に無いと見込まれる氏名を使ったり、犯罪履歴のない人間をフロントに立ててくるだろう。
このように、我々の判断基準や行動が、その後の相手(反社)の行動を変化させる。このことを反社チェックや信用調査において留意しておきたい。
よって自社のやっている反社チェック手法や評価基準は秘密にしておくのが常道である。周囲に知られると抜け道を探られる。
まちがっても自社が「こんなチェックをやっています」的な対外PRをしてはならない。
私もセミナーやコラムで反社チェックのやり方やリスクの考え方の「概論」を述べることがあるが、残念ながら、コアな部分は非公開としている。
このように自分の行動が相手の行動や環境を変化させる反社チェックや信用調査は、自然科学と全く異なる。
自然科学の世界では同じ方向と力でなげるボールはいつも同じ場所に落下する。ボールを投げるという作用が、その後の周辺環境を変化させることはないと想定するのが自然科学である(理系発想)。
最近では「理系発想」に基づき、反社チェックや信用調査の領域で新たな試みが見受けられるが、中には、根本的な発想が誤っている(=現実を知らない)と思われるシロモノも散見される。
■信用情報をブロックチェーン?
理系発想といえば「ブロックチェーン」だ。何でも「ブロックチェーン」に載せたがる。
聞いた話だが「信用情報」をブロックチェーンに載せようとする試みがあるようだ。
残念ながら、この世界(信用調査・与信審査)の現実を無視した単なる「技術志向」にすぎないと思う。
信用情報のブロックチェーン化とは、ある種の情報共有プラットフォームで、信用情報を改竄されにくくし、間違った情報を流した者は、ブロックチェーンによりトレース(追跡)され、ペナルティが課される。
それによって「正しい信用情報」が流通されるようになる、という発想らしい。
他人の取り組みをとやかく言いたくはないが、これは現実をリサーチした上での発想なのだろうか?
信用情報(本当にコアな生情報)というのは、通常は社内だけで留まるものだし、人に伝えるとしても、「ここだけの話」「他言無用で」と、よほど信頼できる間柄で対面で行われるものである。
そして情報源については秘匿するのが常識だ。
超センシティブな「信用情報」を、ブロックチェーンに載せて、だれが、いつ、どんな情報を流通させたのか、すべて証明され、間違っていれば罰せられる。
そんな情報流通システムに対し、一体だれがコアな信用情報を供給しようとするだろうか?
そんな情報網は、怖くて使えない。誰も情報提供しないだろう。
そこで流通する情報は、どこでも入手可能な公知情報に限られるだろう。
「ブロックチェーン」ありきの発想。ただただ「ブロックチェーン」という言葉を使って目立ちたいだけなのかもしれない。
ほかにもAIやらデータサイエンスやら。それらで革新を起こせればよいが、リアルな実態を踏まえないと開発は失敗するのではないか?
この分野は理系発想が想定するようなスマートな世界ではない。
H.Izumi