伝統的なトレーディング主体の商社(いわゆる「流しの商社」)は、商品の在庫リスクを取らないのが原則である。
口銭率3~5%程度の流しの商売が主体の場合、在庫を保有する取引はリスクが高すぎる。
わずかな読み違いや誤算が赤字転落を招く。
ここで言う在庫保有とは、厳密には、販売先と「売り契約」を締結しないまま、
仕入先と「買い契約」を結ぶ契約ベース(いわゆる「玉」)の概念だ。
売りの条件(売り先や売り値など)を確定させないまま、
買い玉を抱えることを「ロング・ポジションを取る」とか「ロングする」と言ったりする。
流しの商社が「ロング・ポジションを取る」ことは、会社にとっての一大事なので、特別なリスク管理が必要となる。
なぜ、ロングするのか?そのロングは、戦略的にテイクするリスクなのか?
あるいは取引先との力関係で、ロングせざるを得ない取引なのか?。
ロングすることによって、どれだけの収益が見込め、逆に最大でどれだけの損失を被り得るのか?。
損切ラインをいくらに設定するのか。
前提とする商品市況の読みは合理的か?手仕舞い期間は?手仕舞い先(売り先)はどこを想定しているのか?等。
起案部門である営業部はこれらの背景を説明の上、ロングの取引申請を行う。
管理部門はそれを徹底的に精査する。内容に不備があれば突き返す。
厳しい決裁者であれば、「ロング」を認めない場合もある。
戦略性もなく単にロングさせられる取引の場合、「そうならないよう交渉せよ」と指示事項が付いたうえで、
申請が却下されることもある。
ロングの取引申請が承認された後は、保有玉の評価損益や手仕舞いの状況がモニターされる。
営業部は、事細かく報告をしなければならず、計画に反して評価損が計上されていたり、
手仕舞いが上手くいっていない場合は、徹底的な状況確認が行われる。
このように、伝統的な商社においては、ロング・ポジションを取るということは特別管理下に置かれることを意味する。
管理される側(営業)から見れば、精神的にも、事務負担的にも大変な苦労の伴う取引となる。
まして、損が出たり、手仕舞い期間が長期化している場合は、なおさらだ。
モニタリングの強度が強化され、事細かに状況を問われる。リスク管理上、当然であるが、担当としては焦るであろう。
そうなると何をするか?
ロングを解消するための「無謀な手仕舞い」が誘発されかねない。
すなわち、相手先の与信リスクを勘案せず、手仕舞える先(売れる先)に玉をひたすら当て込むのだ。
これは、市況・在庫リスクを与信リスクに替えるだけの猫だましの行為である。
与信リスクの高い先であれば、市況より高値で手仕舞えるかもしれない。
そうなるとロングの損失計上は回避できる。一方で、与信リスク(売掛金の未回収リスク)が増大する。
従って、与信管理において、やはり新規の与信申請がなされる場合は、取引の背景を徹底確認しなけれならないのだ。
与信申請の背景が、ロング・ポジションの解消を目的とした「当て込み」の場合、
担当営業の与信マインドが弛緩している恐れがある。
「とりあえず手仕舞えれば、それでいい」「厳しいロングの管理から逃れたい」。
与信審査パーソンは、そのような与信規律の緩みを厳然と律していかなければならない。
*上記に限らず、昨今の与信事故や不正事案を見ると、
与信と在庫(商品)は一体としてリスクマネジメントしなければならないと痛感する。
債権管理が主眼の銀行的与信管理では、リアルビジネス(商社や製造業)の与信リスクに対応できない。
リアルビジネスにはリアルビジネスに即した与信管理が必要なのだ。
*分かりやすくするために「商品」ポジションと記載しておりますが、
本来は「契約」ポジションと表現した方が正確です。