上表は起訴された者のうち前科(*)がある者の割合である。(*)ここでは罰金以上の有罪の確定裁判(実刑、執行猶予、罰金)を受けた者に限る。
詐欺について見ると2019年に起訴された7862人のうち前科のある者が2984人であった。この割合を有前科者率という(詐欺でいえば38%)。
有前科者率が最も高いのは覚醒剤取締法違反の75%超であり、これはイメージ通りだが、反社チェックに関わり多い横領も44%と比較的高いことが目につく。
上表からは起訴された罪名と同罪での前科かどうかは不明である。また、今回起訴された者のうちに前科者がどれだけいるか、を示すのみである。従って、今回起訴された者のうち将来も犯罪を犯す可能性を示唆するものでもないことに注意だ。
いずれにしても、経済犯罪は相応に繰り返される、ということだ。
このことは反社チェックの実務においてしっかりと留意する必要がある。
詐欺など経済犯罪を繰り返す人物は、氏名をコロコロ変える。
筆者が知る範囲では4回の改名をしていると見られる者がいる。つまり、5個の本名を使い詐欺を繰り返してきた。
改名をしているかどうかは、商業登記や不動産登記の閉鎖簿などを横断的にたどるなど簡単かつ正当な信用調査で判明する場合がある。すでにネットなどに改名の噂が出回っている場合もある。
改名が正当な事情に基づくものであれば、何ら問題はない。
ただ犯罪目的で改名を繰り返すのは制度の悪用であり許されない。
改名は「正当な事由」や「やむを得ない事情」があるかないかを家庭裁判所が判断し、その許可が下りれば市役所・区役所で手続きをして完了する。
偽装結婚・偽装養子縁組、裁判所での変更許可を織り交ぜれば、もはや氏名は自由自在に変更できる。リスク管理のプロ(担当者)ならばそのように認識しておくべきだろう。
ちなみに、裁判所の許可を通すために「改名コンサルタント」なるプロが存在するようである。もちろん、彼らが詐欺常習犯など犯罪者の改名を手伝うことはないだろう。
最近は何でも自動化が推奨されている。
反社チェック(コンプラチェック)においても、名刺の氏名などをもとに所定のデータベースにスクリーニングをかけて判別しているようである。
しかし、上述の通り、本名でさえ自由自在に改名できる。まして正式な文書でも何でもない名刺に記載される氏名などデタラメである場合も多い。改名・変名・ビジネスネーム・通名の可能性に十分に留意して、自動化チェックを運用していくべきであろう。
データベースで検索してネガティブな情報がヒットがなくても、それのみをもって安心するのは禁物である。
それによって現場のリスク感覚を弛緩させてはダメである。
机上の反社チェックの結果に関わらず、現地や相手の様子、商談や取引内容に違和感や不自然さはないか、営業部門に注意喚起するのが審査部門の仕事である。