経理・法務と与信審査(取引審査)は、全く性質の異なる業務だ。
私自身は、経理実務の経験はない。
多くの企業で、経理と法務、そして与信管理を兼務している担当者がいらっしゃる。そういった方を差し置いて述べるのも気が引けるが、審査マン時代に感じていた私見をご紹介したい。
経理・法務というのは「確認」の仕事だ。
とにかく経理部門では各部署と密にコミュニケーションしていた。
経理というと黙々と電卓を叩くイメージだが、「確認」「確認」のために、人と話す時間の方が長い仕事だと思われた。
このような性質の仕事であるから、営業部からの質問や問い合わせに対し、自分で対処できない場合、
と回答することは、まったく適切な対応であり、それが仕事である。
業務の目的は会計基準や税法・関連法規に沿った「正確・適法な処理」であり、確実な「確認」こそ最も重要な要素なのだ。
一方、与信審査(取引審査)は、まったく性質を異にする。
例えば、貴方が与信審査担当だとしよう。
営業からある取引の稟議が提出されてきた。その稟議書に対し、審査担当者として、かなり厳しい審査所見(審査としての意見)を表明したとする。
営業サイドが、どうしてもやりたいビジネスであったとする。
貴方の審査所見で、社内が通せない可能性が出てきた。
すると、担当の営業が上司を連れて怒鳴り込んできた。
「なんでこんなこと書くんだ。
相手は自己資本が50%もある取引先じゃないか、問題ないじゃないか?
お前は売上を減らしたいのか?」
このような強烈な営業からの抗議に対して、審査パーソンの拠り所はあるのだろうか?
無い。
経理でいう「会計基準」や「税法」のよう拠り所は無い。法務でいう「関連法規」も存在しない。
顧問税理士や顧問弁護士に聞くような話ではないし、そもそも回答もできないだろう。
唯一の拠り所は「自分の見立てとロジック」しかないのだ。
営業からの強烈なクレームに対して、自分の見立てとロジックを唯一の武器として説得しなければならないのだ。
その唯一の武器である「自分の見立てとロジック」を組み立てるためには、少なくとも、取引先の財務内容、事業内容、業界環境などの理解、その取引の自社経営戦略との適合度、必要な資本と資本効率、自社のリスク許容度なども理解した上でなければならない。
こういったロジックを組み立て、営業に疑問や異議を呈し、取引を阻止しようと動くことは、営業や会社のためでもあるし、なにより審査パーソンとしての自分の成長に繋がる。
H.Izumi