調査員魂
私が信用調査業界に入りたての頃「調査員魂」という言葉をよく聞いた。
「気合の入った」ベテラン調査員は「調査員魂を見せまっせ」と豪語し、私を含めた後輩たちに「調査が何たるか」を身をもって示してくれた。
この言葉が、信用調査業界の共通用語なのか、社内(チーム)造語なのかは今でもわからない。
人によって解釈も違ったと思う。
ただ、私を含めその言葉に触発された者は多い。今でも意識から外すことはできない言葉である。
「調査員魂」とは何なのか。
これをバシッと定義するのは難しいが、「銭湯」の調査を例に少し考えてみたい。
昔ながらの町の銭湯。そこに信用調査が入ることもある。
ただ、銭湯の番頭さん宛てに「信用調査が入りましたので会わせてください」と電話しても、「何ですかそれ。いりません」と拒否されるのがオチである。
たとえ、経営者(番頭)と会えたとしても、番台ごしに詳しいことまで聴ける可能性は低いだろう。
そうすると調査員としてまず考えるのは客となって湯につかりに行くことだ。
百聞は一見にしかず。
実際に行けば、客の入り、客層、ロッカーの数、湯船の数や大きさ、蛇口の数、使用しているアメニティ(髭剃りやクリーム)の銘柄や質。そして湯加減。いろいろとわかる。
これをもとに「業種別審査辞典(きんざい)」に掲載されている統計指標と照らし合わせて売上などを推計し、レポートするのである。
ここまでは誰もがやることであるし、その程度で済ますこともある。
調査には納期や予算というものがあり、それを厳守する以上、やれることには限界がある。そうすると、通常、湯につかりに行くのは1回限り。レポートを書き上げた後は案件から離れる。他にも膨大な調査案件を抱えているから当然である。
しかし「調査員魂」はここで終わらない。
レポートを書き上げたあとも、その銭湯に通うのである。曜日、時間帯を変えて湯につかりにいく。1度限りでは見えなかった発見がある。ローションの減り具合を定期観測する方法もある。
そうすると、万が一、その銭湯へ「2回目」の調査依頼が入ったときには、すでにかなりのことが分かっているのである。1度目のレポートより深度のある情報を短納期で顧客に提供できるのだ。
すべてのケースで実践は難しいだろう。
大事なことは、一度調査した会社をその後も責任をもって気にかけること。どうすれば経営状況を掴むことができるのか工夫すること。
こうした意識こそ「調査員魂」の一端なのではないだろうか?
H.Izumi