経営者が財務状態を実態よりも良く見せようとする「資本の粉飾」。
資本の粉飾に手を染めることで追及されうる罪名は次の通りだ。
虚偽の増資登記(資本金額の変更)をしたとすれば、「電磁的公正証書原本不実記録・同供用罪」にあたる。また、虚偽の増資を有価証券報告書に記載すれば「金融商品取引法違反(虚偽記載)」となる。虚偽の資本金額を記載した有価証券届出書で資金を調達すれば「金融商品取引法違反(偽計取引)」に問われうる。偽計とは嘘の情報で投資家を欺くことである。
増資の引受先が詐欺グループ等のフロント会社だった場合、マネー・ロンダリング罪も関係してくる。すなわち、詐欺グループ等は「組織的犯罪処罰法違反(不法収益による事業経営支配罪、犯罪収益等の仮装隠匿罪)」に問われうる。また、関与した証券会社や銀行についても、場合によってその幇助(ほうじょ)、金融庁への「疑わしい取引」の届出義務を怠っていれば「犯罪収益移転防止法違反」に問われかねない。
経営者が投資家を騙して第三者割当増資により資金調達した場合は「詐欺罪」に問われうる。増資の引受先が元手資金を投資家から詐欺的に集めたような場合も「詐欺罪」や「出資法違反」に問われうるだろう。
経営者が増資で得た資金を増資引受先に還流させるなど独断で社外流出させれば「特別背任罪」、個人的に費消したとすれば「脱税(所得税法違反)」や「業務上横領罪」に問われうる。債権者からの強制執行を免れようと資金を隠せば「強制執行妨害罪」にも該当しうる。
経営者が増資引受先の関係者などに内部者情報を漏洩して株取引をさせれば「インサイダー取引(金融商品取引法違反)」となる。増資引受先が「仕手筋」と組んで株価を人為的に吊り上げたならば「相場操縦(金融商品取引法違反)」となる。
以上が上場会社の資本の粉飾に関わる典型的な犯罪類型(罪名)である。
読者においては、既にこれら罪名の多くを「絞り込みワード」として設定し、記事データベースやWEB検索などで「コンプラチェック」をしていると思われる。
なお、チェック対象が非上場会社の場合でも、その経営陣や株主が過去にこうした経済犯罪に関与していないか注意すべきである。チェック対象の役員等が「上場会社の元幹部」であっても、その肩書に素直に感心してはだめである。
粉飾会社の粉飾に加担した財務役員だったかもしれないし、その縁で反社会的な金融ブローカーなどと繋がっているかもしれない。実際、「暴力団関係者」が上場会社の役員に就任していた事例もある。「上場会社の元幹部」という肩書に出くわした場合、その上場会社がどんな会社であったのかに目を向けるべきである。
何度も述べているが、上場会社ほど粉飾が行われ、反社会的勢力が関係するリスクが大きい。上場会社の経営者は「市場」にコミットした業績目標を何としても達成しようとする。それ自体は悪いことではないが、それが未達になりそうな場合に、粉飾に手を染める会社が多くある。まして債務超過や連続赤字で上場廃止寸前の状況では、その誘因は強くなる。それに付け入るのが反社会的勢力である。架空取引などの相手方となったり、増資の引受(多くは架空的)を通じて上場会社を乗っ取り「ハコ企業」として利用しボロ儲けを企む。
コンプラチェックの担当者は「上場会社」というワードにむしろ警戒すべきである、というのが筆者の持論である。
■記事で学ぶ
上記は一般化した説明であったが、具体的な事件記事をいくつか読めば、より理解が深まると思われる。例えば以下の「検索式」でインターネットの検索すれば、資本の粉飾に関する事件記事をピックアップできる。
●検索式(資本の粉飾関連の事件記事をピックアップ)
増資(電磁的公正証書原本不実記録 OR 金融商品取引法違反 OR 詐欺 OR 特別背任 OR 組織的犯罪処罰法違反)
以上